第2話
【蒼の時】
お節介なマキに呼ばれ、ともかの想いを伝えられるリュウジ
『リュウジ、あんたはともかの事どう思ってるの?』
『ともかはあんたの事が好きみたいだけど・・・』
『リュウジも、ともかの事好きなんでしょ?』
『ともかと付き合ってやりなよ』
捲し立てるマキ
全く、お節介なヤツだ・・・
リュウジはそう思ったが、ともかの想いを知り少し照れながら
『別にええけど、みんなに喋んなよ』
『じゃ、俺、部活あるから』
そう言って逃げる様に友達の待つ部室に向かった。
そして、二人の淡い交際が始まる。
とはいっても、お互いに部活ばかりで手紙の交換くらいしかできなかったというし、一緒に居る時間など殆んどなかった。
しかも、リュウジには少し疑問があった・・・
『何で?俺の事好きなんだろ?』と。
リュウジと、ともかは同じクラスにはなった事はないが、同じ小学校からの同級生だった。
小学生の頃のリュウジは屈指の悪ガキで彼のお母さんは、よく学校に呼び出されていた。
彼は陰湿なイジメ等はしていなかったが、宿題は絶対に提出しないし、仲間を連れて授業を抜け出して山に籠ったり、大嫌いな音楽の先生の音楽室にヘビを放したり、校長室の前にある消火器をぶっぱなしたり。
彼の武勇伝は数多い。
まあ、彼は昭和という時代の典型的な悪ガキだったかもしれない。
ただ、勉強は苦手な彼だが運動神経はピカイチだったし体育の時間だけは彼の眼は輝いていた。
鉄棒やマット運動の時はいつも先生に指名され
『高橋君、前にきてみんなに見せてあげて下さい』
そう先生に言われると照れながらも得意げにやっていたリュウジ。
そんな運動神経抜群のリュウジでも苦手な体育もあった
体育の時間になるといつもは輝いていた瞳も水泳の時間の前だけは冴えない顔をしていた。
6年生になってようやく25Mを泳げるようになったリュウジ。
先生にも
『高橋君は運動は何でも出来るのにどうして水泳は不得意なのかな?』
俺だって不得意な事はあるし、一番恥ずかしいのは俺だから。
彼はいつもそう言っていた。
小学生の頃は勉強が出来る子、足が速かったり運動が得意な子は、ただそれだけで
無条件で女の子にモテる法則がある。
平成の今の時代もこの方程式は絶対的である。
リュウジも例外なく女の子にモテていた
小学5・6年生になると、異性を意識し始める年代で友達の噂話しや、友達同士で好きな子を聞きたがる年頃。
この頃、運動神経抜群で何かと目立つリュウジの事を、ともかは意識し始めていたという。
リュウジも小学6年の時にともかの自分に対する気持ちを噂話で聞いていた
しかし
ともかの父親は一流企業のエリート管理職、母親はPTAの役員だったか?
厳格な家庭の頭の良いお嬢さん
ともかの事をそんなイメージで見ていたリュウジ。
『真面目で勉強は出来るし、自分とは違う世界の女子だし、ウソだろ』
噂話で聞いた小学生の時は、ともかの想いを信じることは無かった。
ともかの事をそんな風に考えていたリュウジは中学生になって交際を始めた今もその疑問は払拭されていなかったし、ともか自身も自分の想いを素直に伝える事が出来なかった。
付き合い始めて間もない中学3年のある日の理科の授業
偶然リュウジと、ともかが理科室の教室で同じ机で実験することになった。
リュウジは無表情で
『実験は俺がやるから見てるだけでいいよ』
『レポートにまとめるのはともかが書いてね』
ともかにそう伝える。
ともかの手前、この実験の失敗は許されない、カッコ良く成功させたいリュウジだったが
『げっ上手くいかねぇや・・・』
『ごめん、失敗したよ』
見事に実験は失敗。
リュウジはかなり恥ずかしかった。
しかし、ともかは実験の事なんてどうでも良かった。
リュウジと同じ机に居て、リュウジ見てるだけ、ただそれだけでともかは嬉しかった。
そんなお互いの本当の気持ちも伝えられないまま中学の卒業式を迎える
リュウジの制服のボタンをもらいたかったともかだが
『リュウジ君のボタンもらってきてくれる?』
そうリュウジの後輩、凌介にお願いすることしか出来ない、本当に素直になれないまま、高橋リュウジと、梵ともかは中学を卒業する。
そして・・
1986年 昭和61年4月
高校進学
高橋リュウジと梵ともか、二人は別々の高校へ進学することになる。
第2話 おしまい
尚、この物語は実在の人物の証言を基にしたリアルなノンフィクション物語です。